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Lee-Byung-hun addicted

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第2話

「慶州にはひとりで行ってきて」第二話



「もういかなくちゃ。」と揺。

「うん。」とビョンホン。

「じゃあ」

後ろ髪を引かれつつ別れる二人。

ビョンホンはタクシーに戻りながら次はいつ会えるだろうと思った。

ちょっと寂しい気もしたがいつも心は一緒だと思うと辛くはなかった。

でも空港を出て一つ目の信号で車が止まった頃、

彼は思いついたように携帯を取り出した。

慣れた手つきでメールを打つ。

「君と離れてからもう3分46秒も経った。

もう飛行機に乗っちゃった?」

ビョンホンは送信ボタンを押しながら

「そうとうイカれちゃったかなぁ」と苦笑いしながらつぶやいた。

揺の携帯はビョンホンからメールが到着すると

「ロマンス」が流れるように設定されている。

「?」

さっき別れたばかりの彼からのメール。

何事かと思って受信した揺はその文面を見てクスッと笑った。

「まだ4分16秒しかたってないじゃない。

飛んじゃってもミン・ギョンビンなら追いつけるかもしれないわ。

挑戦してみる?」

揺は舌を出しながら返事を出した。

さて、彼は何て返してくるだろう。

ワクワクしながら彼女は携帯をポケットにしまった。

「さあ、急がなくっちゃ」

揺は荷物を背負い直した。

運よく東京行きの飛行機のチケットはキャンセルが出たらしくすぐに取れた。

時間のタイミングもちょうどいい便。

早速、機内に乗り込む。

チケットと見比べつつシートを探したどり着く。

「あっ、どうも」

「あっ。」

揺の隣のシートにはさっきホテルで別れたハン・ギジュが座っていた。

「すごい偶然ですね。これから東京にお帰りになるんですか?」

ギジュは笑いながらそう揺に話しかけた。

「ええ、急用が出来たものですから。

ハン・ギジュさんはどうしてお一人で東京行きに?」

「商談があって年末急に先方にお会いすることになったので。

ミンチョルはさすがに連れて行くわけに行かないので、

金海空港まで姉に迎えにきてもらって預けました。」

「そうですか。お忙しくて大変ですね。」

「ええ、まあ。仕方がありませんよ。

ところで、ビョンホンさんはご一緒ではないんですか?」

「はい、彼は今日慶州に用事があるので。」

「そうですか。残念だなぁ。是非お近づきになりたかったのに。」

「話していらしたお仕事の件でですか?」

揺がそう尋ねると

「それもありますが、単に彼のファンで彼の映画が大好きなだけなんです。

実は。」

ギジュはそう言って恥ずかしそうに笑った。

揺は何だかそのギジュの姿にとても親しみを覚えて

「そうですか。私もファンなんですよ。」

と答えて一緒に笑った。

「じゃあ、東京に着くまで彼の映画について語り合いましょうか」

とギジュ。

「そうですね。」

そう笑って答えるとポケットに入れておいた携帯が鳴った。

「あっ、すいません。」

案の定、ビョンホンからのメールだった。

「ミン・ギョンビンは残念ながらロシアに出張中。

タランチュラに君の事は頼んでおいた。

もし、道端で蜘蛛を見つけても踏んだりしないように。

彼かもしれないから。

浮気したら漢江に浮かぶよ。気をつけて。」

揺はクスッと笑い、

彼が今、自分がこうしてギジュと親しげに話しているのを見たら、

どんな顔をするだろう。と思った。

「ビョンホンさんからですか?」

「えっ?」

「だって、すごく幸せそうな顔されていたんで・・」

ギジュはそういうと羨ましそうに微笑んだ。

「メールはされないんですか?」と揺。

「ええ、以前はよくしましたね。

携帯メールを覚え初めの頃はよく打ち間違えて笑われたもんです。

もう、ずいぶん昔のことですけど。」

ギジュはそう答えると窓の外に目をやった。

揺は聞いてはいけないことを聞いてしまった気がして少し後悔した。

その後、二人はひとしきりビョンホンの映画や韓国映画の話題で盛り上がり

自然と名画にも話が及んだ。

「古い映画についてもずいぶんお詳しいんですね。」

名画の数々についてとても詳しいギジュに揺は驚いたように尋ねた。

「ええ、ミンチョルの母親が映画好きで、

よく二人で古い映画のDVDを観たものですから」

「そうなんですか。奥様はお元気だとおっしゃってましたよね。」

揺は少しためらいながらギジュに聞く。

「はい。おそらく元気でいると思います。

実は彼女は今、僕の弟とパリで暮らしているんですよ。」

そういうとギジュはおもむろに妻テヨンと自分の家族について語り始めた。

二人は紆余曲折の大恋愛の末、

皆に祝福されて結婚し、まもなくミンチョルが生まれたこと。

家族三人幸せに暮らしていたが、

弟のスヒョクが事故の後遺症で視力がなくなってしまったことを隠して一人パリで暮らしていることを知ったテヨンが、

責任を感じてパリに行ったこと。

それ以来この3年間家族ばらばらに暮らしていること。

ギジュは揺にそう話したのち

「自分でもどうしたらいいのかわからないんです。」

と付け加えた。

「そんな大事なことを私なんかに話していただいて良かったのでしょうか。」

と揺。

「誰かに相談するといっても姉くらいなものですが、

姉は弟と私の間に挟まれて私以上に苦しんでいますから。

貴方に2度も偶然会ったのも、ミンチョルが引き合わせてくれたのも、

何かのご縁だと思ってついお話してしまいました。

でも、ご迷惑でしたね。」

ギジュはそういうと自嘲的に微笑んだかに見えた。

「迷惑だなんて。そんなことはありませんけど。

でも、簡単にご相談に乗って結論をアドバイスするには、

貴方のことも奥様のことも弟さんのことも私は知らなさ過ぎます。

ただ、ひとつだけお話を聞いていて思ったのは、

皆さん、お互いを気遣うがあまりに自分の想いを正直に相手に伝えてないのではないでしょうか。

皆さんが辛そうだとミンチョル君もきっと辛いと思います。

一度、ミンチョル君も連れてパリに行かれてはどうですか?

きっと奥様、貴方とミンチョル君に会いたいと思ってると思いますよ。

とにかく始めなければ何事も始まらないですから。

こんな無責任に・・・すいません。」

揺は恐縮して言った。

「そうですね。何度も考えては踏ん切りがつかず、

今まで踏み出せなかったのですが、

全くの第3者の方にそういって背中を押していただいたら、

何だか勇気が湧いてきました。

予定を調整してできるだけ早いうちにミンチョルと行ってみます。

貴方に話してみて踏ん切りがつきました。

良かったです。ありがとう。」

ギジュはそういうと前よりも少しだけ明るい表情で微笑んだようだった。

「良かった・・」揺も少しほっとして微笑み返した。




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